オルファクトグラム/井上夢人

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

「事故の後遺症でイヌ並の嗅覚を得た主人公が特殊能力を活かして、失踪した友人を探したり、姉の仇を追い詰めたりするミステリ」という、最初に単行本のアオリで設定を読んだときから、文庫落ちするのがずっと待ち遠しかった作品。
期待を裏切ることなく、かなり面白かったです。


この作品も、『このミス』で4位になっていたりしてミステリ扱いされてしまっていますが、どちらかというと前半はコメディ、後半はサスペンス風味で、いわゆる「ミステリ」とはちょっと違った内容だったりします。『クラインの壷』に近い雰囲気。
前半の、特殊能力のお披露目的なパートはとても愉快で、優れた嗅覚の世界は凄い!と素直に感心させられる文章なのは、井上夢人の「味付け」はやっぱり上手いんだなぁ、と実感できます。で、後半のサスペンス的なパートは、(色々とツッコミどころを上げるとキリがないのだけど、それは置いておくとして)かなりハラハラさせられる展開。一気に読んでしまえます。


『プラスティック』ではイマイチだったのだけど、この作品は井上夢人の真骨頂とも言える、「常人と違った世界の見え方」というのをフンダンに表現している良作なのであります。『クラインの壷』が好きな人は勿論、岡嶋二人井上夢人を読んだことない人も是非オススメの作品。


ちなみにこの作品もWOWWOWの特番で映像化されたそうです。でも上映時間は98分。
文庫で1000ページの大作をそれだけの時間にまとめてしまうのは、ハリポタやロードオブザリング並か、それ以上にムチャがあると思うのだけど…。