イン・ザ・プール/奥田英朗

イン・ザ・プール

イン・ザ・プール

直木賞受賞作!……は、このシリーズの2作目だったので、とりあえず1作目を購入。


京極堂シリーズの榎木津探偵に並ぶ変人精神科医・伊良部の元に、一風代わった精神病を持った人が訪れて迷惑を被る、という、まあ有りがちと言ってしまえば有りがちな連作短編集。


有りがちだけど、非常に面白かったです。
『最悪』のときにも思ったことですが、奥田英朗は人物の内面を文章にするのが非常に上手くて、その描写力を精神病患者に向けたのが素晴らしいです。ごく普通の小市民であったはずの主人公達が、自分の異常な行動や性癖に絶望するあたりは、相変わらず読んでいて背筋が寒くなります。
と書いてしまうと、すごく暗い内容に思えそうなのですが、一つ間違えば重苦しくなるテーマを、かなり変な精神科医を織り交ぜてコミカルに仕上げていて、どの話も読みやすくて読後感がすごくスッキリするいう、作者の手腕の素晴らしさを感じさせられる小説なのでした。


ただ、一過性の面白さはあるのだけど、たとえば10年後に「あの小説は面白かったなァ」と長年心に残るようなストーリーではないです。というか、短編集なのでそういう話を作り上げること自体が難しいとは思いますが。
新書版をわざわざ買うまでもないものの、文庫版が発売されたら是非是非オススメの作品。