最悪/奥田英朗

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)

かなり面白い。


タイトル通り、町工場の社長・銀行員・チンピラの3人の人間の「最悪」な状況がそれぞれ書かれているのですが、その「最悪」の度合いが妙にリアリティーがあって、読んでいて嫌な汗をかくことは必至です。正に泥沼。転落人生。読み終わってとても鬱になりました。
で、その「最悪」の描写だけでも十分に凄いのですが、3人がある事件をきっかけに会って行動を始めるシーンがまた凄い。『街』のザッピングシステムを小説でやってしまった、みたいな勢いで、一気に駆け抜けるように3人のアングルから事件が書かれています。最近小説を読んでいた中では、一番「凄い!」と思えるシーン。


同系統の小説(1つの話の主軸に対して複数人の視点で物語が展開する小説)では、伊坂幸太郎の『陽気なギャングが地球を回す』があるのですが、こちらは以前の感想にも書いたように、特殊能力や秘密道具を登場させて少年漫画風に仕立てたのに対して、『最悪』は精神的に非常にグロいシーンが多くて、とにかくリアリティーが強く出される内容になっています。似たような小説なのに、視点やテーマが違うとこれほど読んだ印象が変わるのだなぁ、と関心。
どちらも同じくらい面白いのですが、個人的には『最悪』に軍配かな。


分厚い本なので若干及び腰になるかもしれませんが、とにかく後半は勢いがあるので一気に読めてしまいます。オススメの一冊!……と書きたいところだけど、本を読んで鬱になりやすい人は注意が必要かも。